1988年、東京・豊島区で起きた「巣鴨子供置き去り事件」。母親が4人の子どもを自宅に残したまま姿を消し、やがて白骨化した遺体が見つかるという衝撃的な事件でした。
時を経て、この事件は是枝裕和監督の映画『誰も知らない』のモチーフとして知られるようになり、今なお「母親や子どもたちのその後」に関心を集めています。
この記事では、事件の概要から、映画との関係、そして母親や長男たちの現在について整理します。
巣鴨子供置き去り事件とはどんな事件だったか
巣鴨子供置き去り事件は、1988年7月、東京都豊島区西巣鴨で発覚しました。
当時30歳前後の母親が、4人の子どもを残したままアパートから姿を消し、子どもたちは数週間にわたって閉じ込められた状態で生活していたとされています。
発見のきっかけは、アパートの大家が家賃滞納を不審に思い、警察へ通報したことでした。室内からは、栄養失調状態の3人の子どもと、白骨化した乳児の遺体が見つかりました。
この事件は「保護責任者遺棄」「育児放棄(ネグレクト)」として大きく報じられ、子どもの権利や行政の支援体制に対して社会的議論を呼び起こしました。
また、現場となったアパートの1階には当時「ミニストップ」が入っていたとされ、事件を象徴する地名や建物として後年まで記憶されています。
巣鴨子供置き去り事件が映画化された「誰も知らない」とは
映画「誰も知らない」
1998年に実際に起こった
“巣鴨子供置き去り事件”
をモチーフとしてつくられた映画です。子供たちが置き去りにされる異常な生活が細部までリアルに表現されています。
─生きているのは、おとなだけですか。─https://t.co/Tw4LlsWzgC pic.twitter.com/rqN2CifM02
— Heart resQ| 家のことで悩む子どもがSOSを出せる居場所 (@heartresq0524) May 19, 2021
2004年に公開された是枝裕和監督の映画『誰も知らない』は、この事件をモチーフにした作品です。
実際の事件を忠実に再現するのではなく、「母親に置き去りにされた子どもたちがどう生きるか」というテーマを描いており、ドキュメンタリーのようなリアルさが評価されました。
長男役の柳楽優弥さんは、この作品で当時14歳ながらカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。日本映画史に残る作品として知られています。
映画では舞台や人物設定を一部変えていますが、根底にある「子どもたちの孤立」と「社会の無関心」は、巣鴨子供置き去り事件の実相を強く想起させます。
巣鴨子供置き去り事件のその後は?
事件後、母親は「保護責任者遺棄」などの罪で逮捕・起訴されました。
ただし、裁判の詳細や量刑に関する公式記録は公開されておらず、一部の報道や研究資料では「懲役3年・執行猶予4年」という情報もありますが、確証は得られていません。
この事件をきっかけに、「無戸籍児問題」や「ネグレクトへの行政対応」などが注目されるようになり、1990年代以降の児童虐待防止法や児童相談所の制度強化にも影響を与えたといわれています。
「親の責任」と「社会の支援」という二つの視点を問う事件として、現在も教育・福祉分野で言及され続けています。
巣鴨子供置き去り事件のその後・母親と長男、兄弟たちの現在
母親と子どもたちのその後は、公的な報道や記録が残されていません。
ただし年齢を計算すると、2025年時点で母親は約67歳、長男は51歳、長女は44歳、次女は40歳になります。
一部の記録では、長男が事件後に児童施設で保護され、保護処分を受けた可能性もあるとされています。
しかしその後の生活や所在は明らかにされておらず、現在は匿名のまま社会に溶け込み、一般市民として暮らしているとみられます。
長男は学生生活を送り直し生徒会長にまでなったといいます。その後母親と会うことは一度もなかったそうです。
事件から37年。被害者である彼らが静かに人生を歩んでいることを願う声も多く、当事者への配慮から取材や報道が控えられているのが現状です。
巣鴨子供置き去り事件と「映画の旅人」とは?
「映画の旅人」は、NHKや配信系メディアで展開された映画特集シリーズで、是枝裕和監督や関係者が『誰も知らない』を振り返る内容が放送されました。
番組内では、この作品が「事件そのものではなく、“子どもたちがどう生きるか”を描いた物語」であることが語られています。
「旅人」という言葉は、親に見放されながらも生き抜こうとする子どもたちを象徴しており、現実の巣鴨子供置き去り事件と重ねて見る人も少なくありません。
事件を題材とした映画や番組を通じて、社会全体が“見えない子ども”の存在に再び目を向けるきっかけになったといえるでしょう。
まとめ
巣鴨子供置き去り事件は、単なる犯罪事件ではなく、子どもたちの「生きる力」と社会の「無関心」を問いかける象徴的な出来事でした。
母親や子どもたちの詳細は今も不明のままですが、その悲劇がもたらした教訓は現在にも通じています。
映画『誰も知らない』や「映画の旅人」を通して、孤立した家族をどう支えるか、社会がどう寄り添うかを考える――それが、この事件の真の意味かもしれません。