なぜ90年代に「ミリオン連発時代」が生まれたのか
90年代のオリコンチャートを振り返ると、「ミリオン」「ダブルミリオン」という言葉が当たり前のように飛び交っていましたよね。CDショップの新譜コーナーにはタイアップ付きのシングルがずらっと並び、ドラマ主題歌やCMソングが次々と大ヒット。今振り返ると、あの状況はまさに「CDバブル」と呼ばれる特別な時代でした。
当時の日本では、CD再生機器の普及とカラオケブーム、テレビドラマの高視聴率、レンタルCD店の拡大など、音楽にお金と時間が自然と集まる環境がそろっていました。その結果、CDの生産枚数・売上金額は90年代後半にピークを迎え、ミリオンセラーが「特別な例」ではなく「毎年たくさん出るもの」になっていたのです。
CDバブル期の市場データと規模感
数字で見ると、その“異常さ”がよくわかります。日本レコード協会の統計によると、1998年頃にはCDの生産枚数が年間で4億枚を超え、金額ベースでも過去最高水準になっていました。シングル・アルバムのどちらもよく売れ、とくにシングルはテレビドラマやCMのタイアップで一気に枚数を伸ばすケースが多かった時期です。
一方で、そこから約20年たった2010年代後半には、CDの年間販売枚数はピーク時の半分以下まで落ち込んだとされています。今もフィジカルが根強い日本とはいえ、「音楽を聴く=CDを買う」という構図はすっかり崩れてしまいました。だからこそ、90年代にミリオンが連発していたのは、音楽市場全体が物理的なパッケージを中心に膨らんでいた“ひとつのバブル”だったと言えます。
CDバブルを支えたビジネスモデル
では、なぜあそこまでCDが売れたのか。背景には、いくつかのビジネスモデル上の仕掛けがありました。
① レンタルCDと「とりあえず借りる」文化
90年代は、TSUTAYAをはじめとするレンタルCD店が全国に広がった時期でもあります。気になる曲があれば「とりあえず借りる」、気に入れば「やっぱりCDも買う」という二重の消費が起こっていました。レンタル用CDも販売枚数にカウントされるため、店頭用としてまとまった数が出荷されることもミリオン連発の一因でした。
② ドラマ・アニメ・CMとのタイアップ戦略
当時のヒット曲を思い出すと、ほとんどが「ドラマ主題歌」「アニメ主題歌」「大型CMソング」といったタイアップ付きではないでしょうか。高視聴率ドラマで毎週流れることで曲が“国民的な認知”を得て、CD発売日にショップへ駆けつける流れが自然とできていました。
タイアップは、曲そのものの魅力に加えて「作品の世界観」「出演俳優の人気」も一緒に背負ってくれるため、CDが売れやすくなる強力な仕掛けでした。
③ 店頭プロモーションと“棚取り”競争
CDショップが音楽の入り口だった時代、どの棚にどれだけ大きく置かれるかは売上に直結していました。発売日に向けた特設コーナー、ポスター、POP、試聴機など、店頭プロモーションにレコード会社が力を入れていたのもCD時代ならではです。
「ランキング上位だから目立つ場所に置かれ、売れているからさらに売れる」という好循環も、この物理的な売り場があったからこそ起きていました。
ストリーミング時代との決定的な違い
一方で、現在の音楽ビジネスはストリーミングを中心とした“聴き放題”モデルが主流です。ユーザーは月額料金を払えば、ほぼ無限に近い楽曲にアクセスできるため、「1枚のCDに3,000円を払う」という感覚そのものが薄れました。
これにより、ヒットの指標も「CDの売上枚数」から「再生回数・プレイリスト入り・SNSでのバズ」へとシフトしています。90年代のように「CDが100万枚売れたから国民的ヒット」という分かりやすい物差しは薄れ、いろいろな場所でじわじわ聴かれていくタイプのヒットが増えました。
また、流通構造も大きく変わっています。CD時代はレコード会社→流通→CDショップ→消費者という“物の移動”がビジネスの中心でしたが、ストリーミング時代は配信プラットフォーム上の“データの移動”が軸。棚の大きさにも物理的な在庫にも制限がないため、1アーティストに対して大量出荷することでミリオンを狙う、という発想自体が成り立ちにくくなっています。
CDバブルをどう捉えるか・これからのヒットの形
改めて考えると、90年代のミリオン連発は「景気」「メディア」「流通」「テクノロジー」のタイミングがたまたまぴったり重なった結果でもありました。テレビの視聴率が高く、CDプレーヤーやカラオケが広く普及し、レンタルやショップ文化が全盛。そこにタイアップ戦略や大型プロモーションが乗っかり、数字としても分かりやすい“ヒット”が次々と生まれていったのだと思います。
今は、CDだけを見れば確かに市場は縮小していますが、ストリーミングや動画プラットフォームまで含めると、音楽を聴く人自体が減っているわけではありません。むしろ、アーティストが海外リスナーに届きやすくなったり、バイラルヒットが生まれやすくなったりと、別の形のチャンスが増えています。
「なぜあの時はミリオンが連発したのか?」と同時に、「これからは何をもって“ヒット”と呼ぶのか?」という視点で音楽業界を見ると、90年代のCDバブルも、今のストリーミング時代も、それぞれの面白さが見えてくるように感じます。