音楽番組のセットや演出はなぜ番組ごとに違うのか？
年末の音楽特番や毎週のレギュラー番組を見ていると、「同じアーティストでも番組によって雰囲気が全く違う」と感じることがあります。とくに日本を代表する音楽番組である『FNS歌謡祭』『ミュージックステーション（Mステ）』は、セット、照明、カメラワークなどの演出方針が大きく異なり、その差が“番組らしさ”を生み出しています。
今回は、テレビ業界の制作現場で実際に行われているカメラワークや照明設計の視点を交えながら、FNS歌謡祭とMステの演出の違い、そこに隠された番組の狙いをわかりやすく解説します。
FNS歌謡祭とMステの番組カラー
まず、両番組の根本的なコンセプトの違いがあります。FNS歌謡祭は“音楽の祭典”としての豪華さ・コラボの特別感に重点が置かれ、Mステはアーティストの“ライブパフォーマンスのかっこよさ”を引き出すことを重視しています。
FNS歌謡祭は毎年ホテルや劇場を思わせる大規模なセットを作り込み、ステージも複数用意。アーティスト同士のコラボや生演奏が多く、音楽を“空間全体で楽しませる”構成が特徴です。
対してMステはテレビ朝日のスタジオに最適化された演出で、LEDパネルや光の反射を使ったスタイリッシュな世界観を築いています。照明とカメラの連動が非常に精密で、数秒単位のカット割りが特徴です。
カメラワークの違い
FNS歌謡祭とMステの大きな差が出るのがカメラワークです。番組の目的が違うため、映し方にも明確なこだわりがあります。
■ FNS歌謡祭：空間の広さ・世界観を伝える“俯瞰系”が多い
FNSはカメラ台数が多く、クレーンやレールカメラを使った“引きの絵”が豊富です。ステージ全体を映し、照明・セット・オーケストラ・観客席を含めた“空気感”を視聴者に届ける狙いがあります。
特に冒頭の長いワンカットや、アーティストを囲むように動く流れるカメラはFNSならではの映し方です。
■ Mステ：アーティストの魅力を切り取る“寄りのカット”が中心
Mステはシンプルですが精度の高いカット割りで、アーティストの表情や細かい振りをしっかり捉えます。1曲の中でカットの数が非常に多く、ダンスや表情の一瞬を美しく切り取るスタイル。
また、ステージ横を通る“レールカメラ”と、アップに寄る“ハンディカメラ”を巧みに組み合わせ、ライブらしさを強調しています。
照明演出の違い
照明の方向性も、番組のカラーを大きく左右する要素です。照明は単なる明かりではなく、「どう見せたいか」を表現する最も重要な技術です。
■ FNS歌謡祭：舞台照明に近い“温かさと奥行き”
FNSは、劇場型の照明デザインが多く、暖色系のライトやスポットライトを多用。
ステージ奥に大きなシャンデリアやライトの装飾を配置することで、華やかでクラシックな雰囲気を作り出します。
また、生演奏パートでは“音の厚み”を視覚的に伝えるため、横からのサイドライトで立体感をつけるのも特徴です。
■ Mステ：LEDを駆使した“シャープで未来的”な光
Mステは、青や白を基調とした強めのライトと、LEDパネルを組み合わせたクールなスタイルが代名詞です。
曲の展開に合わせて照明が連動し、ビートに合わせた“光の演出”が入るため、ダンスパフォーマンスと非常に相性が良い構成になっています。
番組の狙い
同じ音楽番組でも、狙っている方向性が全く違うため、演出も変わります。
● FNS歌謡祭の狙い：音楽の“価値”と“文化”を見せる
FNSはアーティスト同士のコラボ、フルサイズ歌唱、生演奏など、音楽そのものを“作品”として届けることを目的としています。そのため、楽曲の世界観を重視し、カメラ・照明・セットが一体となった“舞台”のような空間を作り上げます。
● Mステの狙い：アーティストの“表情・パフォーマンス”を強調
Mステが重視しているのは“ライブ感”。ダンスの細かい振りや、歌の瞬間の表情をダイレクトに伝えることで、アーティストの魅力が最大限に引き出されます。収録のテンポや編集のスピード感も早く、テレビ朝日らしいクールなバラエティ性も含まれています。
まとめ
音楽番組は、同じ「歌の番組」であっても、その演出方針は大きく異なります。FNS歌謡祭は“音楽空間の美しさ”を伝える豪華なステージ構成と、俯瞰的なカメラワークが特徴。一方、Mステは“ライブパフォーマンスの切れ味”を際立たせる寄りのカメラとシャープな照明設計が魅力です。
アーティストのステージを見比べる際、こうした違いを少し意識してみると、音楽番組の楽しみ方が何倍にも広がります。「同じ曲でも番組で印象が違う理由」が見えてくると、演出の奥深さに気づけるはずです。
